浄信寺HP当寺の歴史寺と税金10年1日 | 愛犬の死

                  
       『白べーが死んだ日』・・・長年飼っていた愛犬の死を見つめた『浄信寺寺報』に掲載した。中学2年生の女の子の作文です。・・・・    
 空はもう真つ暗になっていた。十時を少し過ぎた寒い日だった。白べいは、体中に赤い点ができ、立上がることも、息さえもうまくできなかった。このひどい状態ので、もう 何日経つただろうか。私は、白べいの横に一緒に寝転がつて時間が経つのも忘れていた。 静まりかえつた部屋には荒い息だけが不気味に響いていた。いつもと変らない情景なのに、突然、信じられない事が起こつた。白べいが起き上がり、力をしぼり玄関へ歩いてる。私は、夢をみていると思った。こんなことがあるはずない。夢を見ているといいと思った。階段でドンと落ちたかと思うと、グーッと背伸びをし、ガクッと首が折れた。一瞬の出来事なのになぜか、今でも、目に焼き付いて離れない。首がグラグラしいる。舌が、たれ下がっている。目は開いているのに、どうして私を見てくれないのだろ「白べい!何やっているの!起きてよ」もう荒い息は聞えるはずがない。

 弟は、ずっと背を向けたままこちらを見ようともしない。小刻み肩が揺れていた。 「お・か・あ・さ・ん」声が震えている。(私、泣いているんだ。誰か早く来て、死んじゃった)私の心は台風が来たように荒れていた。(泣き顔を見られたくない)なぜか、こんなことも考えていた。顔を洗いに行っても、真っ赤な鼻を見ると、涙が瀧のようにあふれた。止まらなかった。

 次の日、墓の土をなぜていた。心には、大きな穴が開き、台風が過ぎ去ったようだった。その穴を十数年間の白べいとの思い出がグルグル回っていた。白べい は大きいくせに静で優しい犬だった。小さいころから、 私の身勝手相談事を、黙ってうなずくように聞いてくれた。白べいにしか言えないことがたくさんあった。私との幾つかの思い出、嘘のない心の成長まで持って遠いどこかへ行ってしまった。
 病気が起こ ったのは一か月ほど前だった。「今まで病気なんかしたことないのにね」「すぐ治るね」言いながら、お互いつぶやくように心を慰めていた。しばらくすると車で病院通いが始まった。「もうだめかもしれませんね」ある日、先生が床を見つめ、ため息混じりにつぶやいた。嘘であってほしい心からそう思ったみんな必死だった。「もう来てくださらなくて結構です」数日後、言いにくそうに、しかしはっきりとおっしゃった。

 同時に、 白べいが嫌がった注射も病院食もなくなった。このときほど時間が止ればいいと思った ことはなかった。中二の冬一周忌を迎えた。一年も経つと言うのに十一月十五日、あの日の出来事は昨日のようだった。どこからか元気だった白べいの声がしたような気が した。あのころのように、相談したいことがどんどん心に積っているのに。  あのころに比べると、心がずっと重くなっていると思う。「行ってきます」私がそう言うときは、 いつも玄関でしっぽを振っている白べいがいた。「ただいま」と言うときも同じだった。

 今玄関でしっぽを振っているのは、残されたもう一ぴきの犬だ。白べいとじゃれ合って いたあのころを覚えているだろうか。疑ってしまうほどのんきな顔をしている。この犬とも、いつか同じ別れを繰り返さなければいけないことを、家族みんな知っている。だ が、怖くて誰も口に出せない。私の胸の中で、複雑な気持が渦巻いている。初めて永久の別れを経験したから。外から、母に夕食をねだる元気のいい声が聞えてきた。
               
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